スティーブ・ジョブズ氏がアップルCEOを辞任し、ティム・クック氏が後任となってから14年。かつてはジョブズ氏の「右腕」という印象が強かったクック氏だが、その在任期間はすでにジョブズ氏を超え、アップルを世界的巨大企業へと変貌させた。

この14年でアップルの売上高は就任当時の約4倍に急増。iPhoneの収益は4倍以上となり、かつて1機種だったiPhoneは現在5機種に増え、iPadも多様なモデルを展開する。当時存在しなかったウェアラブル事業や実験的なヘッドセット、そしてiPhoneチップを搭載し復活を遂げたMacなど、製品ポートフォリオは劇的に拡大した。

 「サービス」がAppleの柱に

クック氏の最大の功績の一つは、サービス部門の爆発的な成長だ。2012年には約150億ドルだったサービス収益は、2024年には680億ドルに達し、期間中のiPhone収益を上回る成長を見せた。サービスは非常に高い利益率を誇り、アップルの総利益が360%増加した主要因となっている。

 巧みな政治的手腕

また、クック氏は「テクノロジー業界のトップ外交官」とも称される政治手腕を発揮。中国政府との緊密な関係を築き、巨大市場へのアクセスを確保する一方で、米国政府（特にトランプ政権）とも協力姿勢をとり、アップルの利益最大化に貢献した。欧州連合の規制当局に対しては強硬な姿勢を見せつつも、最終的には必要に応じて方針転換するなど、巧みな手腕で企業を守ってきた。

 製品イノベーションと課題

製品イノベーションに関しては、カリスマ的な直感力を持つジョブズ氏とは異なるアプローチをとった。しかし、Apple WatchやAirPodsといった画期的な新製品を成功させ、AR（拡張現実）デバイスの未来に賭ける「Vision Pro」も発表。一方で、実を結ばなかったApple CarプロジェクトやLLM（大規模言語モデル）への対応の遅れといった課題も抱えている。一時期迷走したMacを、iPhoneチップ搭載で史上最も成功した時代へと導いたことも特筆すべき点だ。

 「クック時代」のレガシー

ティム・クック氏は、アップルを製造・生産面で革新し、世界中に事業を展開する巨大企業へと成長させた。その最大の使命である「アップルの成長」を達成し、企業価値と株主利益の最大化という点で「とてつもない成功」を収めたと言えるだろう。彼のCEOとしての役割はまだ終わっていないが、いずれ後継者が現れる際には、クック氏を模倣するのではなく、新たな才能と独自のビジョンでアップルを牽引することが求められるだろう。