Appleは2015年の初代iPad Pro登場以来、その主力タブレットを「PCの代替」として積極的に宣伝してきました。「次なるコンピューターはコンピューターではない」といったキャンペーンからも、iPadを単なる娯楽タブレット以上の存在として認識させたい意図が明確に見て取れます。

しかし、その一方で、iPadはAppleのMacBookのような本格的なコンピューターを完全に置き換えるには多くの制限を抱えているのが現状です。今秋登場する「iPadOS 26」ではmacOSに触発された新機能が多数導入されるものの、iPad ProがMacBookの完全な代替となる可能性は低いと指摘されています。

 高性能ハードウェアとソフトウェアの乖離

iPad、特にAirやProモデルは、最新Macと同じMシリーズチップを搭載するなど、驚くべきほどの高性能ハードウェアを誇ります。MacBook Proと同じM4チップを搭載するiPad Proの存在は、AppleがこれをPC代替と位置づける大きな理由となっています。

しかし、コンピューターは単なる部品の寄せ集めではありません。iPadのソフトウェアは、その内蔵チップの潜在能力を十分に引き出せていないのが実情です。多くの場合、Macで利用できるような本格的なソフトウェアはiPadでは動作せず、iPhoneアプリの拡大版に過ぎないケースが目立ちます。

例えば、長らく要望されてきたマルチウィンドウ機能「Stage Manager」もiPadOS 17で導入されたものの、ウィンドウの自由なリサイズや開けるアプリ数に制限がありました。iPadOS 26でこの点は改善されるものの、外部ディスプレイに接続した場合の体験は依然として課題が残ります。大きな画面での表示の最適化不足や、MacBookにある「クラムシェルモード」の不在などが挙げられます。プロ向けアプリとされるPhotoshopやFinal Cutなども、macOS版と比べると多くの機能が制限されたタブレット版に留まっています。

 Appleの製品戦略：代替ではなく共存

実は、AppleはiPadをMacBookの完全な代替にしたいとは考えていないという見方が支配的です。WindowsノートPCからiPadへの移行は歓迎しつつも、同社はiPadとMacBookを異なるタスクに向けた独立した製品として位置づけており、ユーザーに両方の購入を促したい意図があるからです。

iPadOSは、そのルーツがiPhoneの大型版であることからもわかるように、根本的にタッチ操作を主軸とした設計思想を持っています。キーボードとマウス操作に最適化されたmacOSとは異なり、iPadを真のMac代替にするには、iPadOSの根本的な変更が必要となりますが、それは既存のタッチ操作体験を損なう可能性があります。また、macOSのようなサードパーティドライバ、完全なターミナル、サイドローディングといった開放性は、AppleがiOSやiPadOSに望んでいない領域であり、App Storeエコシステムへの限定を重視していると見られます。

プロユーザー向けにはファイル管理機能の改善やフォントインストールの簡素化、タブレットモードと外部入力デバイス接続時でのインターフェース自動最適化など、まだまだ改善の余地はあります。

結論として、Appleは最終的にユーザーがiPadとMacの両方を購入することを期待しており、iPadがMacBookの完全な代替品となることはないと筆者は述べています。iPadはApple Pencilなどを活用したクリエイティブな作業には最適なプラットフォームですが、MacBookとは異なる製品として認識し、それぞれのニーズに合わせて選択することが重要であると締めくくられています。