イギリス政府、AppleのiCloud暗号化解除を断念：巨大企業の影響力と国家権力の均衡に課題

イギリス政府がAppleに対し、ユーザーのiCloudコンテンツへのアクセスを可能にする「技術的能力通知」を発出しましたが、Apple側がこれを拒否し、最終的に政府が要求を断念したことが明らかになりました。この結果は、巨大テクノロジー企業と国家権力との関係、そしてその均衡について改めて問いを投げかけています。

筆者は、民主的に選ばれた政府が企業に「敗北」したことに対し複雑な感情を抱くと表明しています。これは由々しき前例であるとしながらも、Appleの拒否が「20億人以上のユーザーのセキュリティを危険にさらす」政府の計画を阻止した点で、結果的にユーザーの利益につながったと指摘しています。Appleは倫理的動機ではなく利益追求のために行動する企業であり、今回はたまたま企業の利益（ユーザーからの信頼維持）とユーザーの利益（データセキュリティ）が一致したに過ぎないと分析しています。

Appleは世界で最も価値のある企業の一つであり、その年間マーケティング費用は多くの国の軍事予算をも上回ります。各国はAppleの投資を誘致するため、極めて低い税率や優遇措置を提供することが多く、またAppleはサプライヤー間で競争を煽り、自社に有利な条件を引き出しています。さらに、莫大な費用を投じてロビイ活動を行い、法律の解釈や変更にも大きな影響力を行使しており、その政治的権力は他に類を見ない規模と範囲に達しています。

しかし、Appleの力が常に及ぶわけではありません。本国である米国では、市場の規模と重要性から、Appleは政府の規制に基本的に従わざるを得ません。そして、最も効果的にAppleを抑制しているのは欧州連合（EU）であると指摘されています。EUは一貫した統一戦線を張ることで、LightningからUSB-Cへの切り替え、自己修理プログラムの開始、iOSのサイドローディング許可など、ユーザーに利益をもたらす変更をAppleに強制してきました。これは、Appleが単一国からの要求は無視できても、広範な「ブロック交渉」には抵抗しきれないためです。

2020年にEUを離脱したイギリスは、今回の件が示すように、Appleの巨大な影響力に対し単独で対峙せざるを得ない状況に置かれています。今回のiCloud暗号化解除の断念は、EUから離れたイギリスが直面する現実の一端を示していると言えるでしょう。