英政府、Appleへのデータアクセス要求断念か 米からの圧力で方針転換

英国政府が、米アップル（Apple）のiCloudデータへのアクセス要求について、撤退を検討していることが明らかになりました。これは、アップル製品へのバックドア設置を求める秘密命令が、米国政府や世界中のテック企業から強い反発を招いたためと見られています。

報道によると、英政府は2025年初頭から、アップルが提供する暗号化されたiCloudデータへのアクセスキー取得を試みてきました。今年1月には、英内務省が秘密裏に「技術的能力通知」を発令。これは、2016年英国捜査権限法に基づき、アップルの世界中の顧客がクラウドにアップロードした全コンテンツへのアクセスを提供するバックドアを同社に作成するよう求めるものでした。

しかし、この通知は大きな論争を巻き起こしました。テックメディアは一斉に「世界中の20億人以上のアップルユーザーのセキュリティを即座に侵害する」と強く批判。米国からも強い懸念が示され、JDヴァンス副大統領は「米国の敵に悪用されかねない脆弱性を作るのは愚か」と発言しました。

さらに、ドナルド・トランプ大統領もこの命令を「中国で聞くような話だ」と批判し、キーア・スターマー英首相に対し「こんなことはできない」と直接伝えたと報じられています。これに対しアップルは、要求を断固拒否。英国のiPhoneから暗号化されたAdvanced Data Protection機能を削除し、「当社製品にバックドアやマスターキーを組み込んだことはなく、今後もそうするつもりはない」と改めて表明しました。

こうした内外からの圧力が高まる中、英政府はアップルとの対立から「穏便に抜け出す方法」を模索しているといいます。背景には、この強硬策が、アップルのティム・クックCEOを盟友と見なすトランプ政権との米英関係、特に貿易交渉などに悪影響を及ぼしかねないという判断がある模様です。

英政府関係者からは「副大統領は非常に不満を抱いており、解決が必要だ」「内務省は基本的に撤退せざるを得なくなるだろう」といった声が漏れています。スターマー政権は、弱腰に見られない形で撤退するという困難な課題に直面しており、今後の動向が注目されます。