AppleのApp Storeにおける厳格な規約、特に「アンチステアリング」ポリシー（アプリ内から外部サイトへの誘導を制限する方針）を巡っては、かねてより規制当局との間で複雑な対立が続いています。しかし最近、Apple自身がこの規約に違反する行為を行っていたことが明らかになり、同社の主張に疑問符が投げかけられています。

問題となっているのは、AppleがiOS 18のTVアプリ内で自社コンテンツである映画『F1 – The Movie』のチケット販売を全画面広告で宣伝した際の対応です。通常、外部サイトへの誘導を行う開発者には厳しい警告表示を義務付けているにもかかわらず、Appleはこの広告から購入ページへのリンクに、そうした警告を一切表示していませんでした。

この行為は、欧州連合（EU）がデジタル市場法（DMA）に基づき、App Store外での購入誘導を制限するAppleのポリシーに対し、5億ユーロの罰金を科した理由と全く同じ性質のものであり、Appleの二重基準を露呈する形となりました。

Appleはこれまで、EUによる規制は「開発者を混乱させ、ユーザーにとって有害」であると主張し、現在も5億ユーロの罰金に対して控訴しています。しかし、外部サイトでデジタル商品を購入する際に厳重な警告を求める一方で、物理的な商品については同様の警告を不要とする自社の複雑な規約こそ、混乱の原因であるとの指摘も上がっています。

EUの規制当局は、加盟国における企業の事業運営方法を規定することがその職務であり、Appleが自らの規約に違反した事例は、今後の法廷闘争において重要な証拠となる可能性を秘めています。皮肉にも、Appleが過剰なまでにプッシュしていた「F1」のプロモーションが、自社の規約違反を露呈する形となり、アンチステアリングポリシーを巡る論争に新たな展開をもたらしています。