Appleの広告戦略が迷走している。同社は近年、記憶に残るような優れた広告を生み出せず、制作した広告を撤回する事態が相次いでおり、そのブランドイメージに懸念が示されている。

1990年代後半から2000年代初頭にかけて、Appleは「Think Different」キャンペーンやiMac、iPod、そして「Get a Mac」シリーズといった、歴史に残る画期的な広告を次々と発表してきた。これらは、倒産寸前だった同社を立て直し、Macの魅力や使いやすさ、Appleのクールなイメージを確立する上で極めて重要な役割を果たした。

しかし、2009年以降、Appleはかつてのような記憶に残る広告をほとんど制作できていない。特に過去1年ほどは状況が深刻で、制作された複数の広告が物議を醸し、最終的に取り下げられる事態に発展している。

代表的な例として、2024年5月に公開されたiPad Proの「Crush」広告が挙げられる。この広告は、楽器や画材といった創造性を象徴する品々をプレス機で押し潰す描写で、iPadの多機能性を表現しようとしたものの、「破壊的」であるとの批判が殺到し、数日後にAppleが謝罪して撤回した。

また、Apple Intelligenceの広告でも問題が起きた。登場人物がAIを使って嘘をついて自分を良く見せる内容や、Siriが未実装の機能を実行できるかのように見せる広告が批判を受け、やはり取り下げられた。さらに、子どもたちが親をだましてMacを買わせる方法を指南する広告も、その倫理性が問われ、最終的に撤回されている。

こうした広告撤回が1年余りの間に3件も発生している上、同社がプロモーションしているF1映画の宣伝戦略も物議を醸している。Walletアプリや通知を介した過剰なマーケティングは、不必要でユーザーの反感を買いかねないとの批判が出ており、iOS 26ではこの種の広告のオプトアウト機能が追加される予定だ。

かつては「可愛らしく」「希望に満ちていた」Appleの広告は、現在では「皮肉っぽい」と評されるまでになっている。広告の問題は技術的な課題と異なり修正が容易なはずであり、同社は長年の強みであった広告戦略が、今や重大な負債と化している現状を早急に改善する必要がある。